初夏、プール開きを前に全国の小学校でプール清掃が行われます。
そこで全国的に行われているのがヤゴ救出大作戦と銘打たれたヤゴの保護と家庭での飼育。今まさに小学生の子どもが「プールで採れたヤゴ」を持ち帰ってきて扱いに困っている最中ではないでしょうか?
家でヤゴを育てるときに一番難しいのがエサやり。適切なエサをあげてトンボに羽化するまでエサをあげ続けなければなりません。どんなエサをどのように与えればいいのでしょうか?
家で飼育するヤゴに最適なエサはアカムシ
生きたアカムシを与えるのが最も簡単で確実
与えやすくて入手しやすいアカムシ
プールで採れたヤゴにおすすめのエサは「生きたアカムシ」です。与えやすさや入手しやすさを考慮するとベストチョイス。理由は以下の通り。
ヤゴは肉食だから動いているエサしか食べない
ヤゴは肉食性の昆虫で動いているものをエサとして認識するから、生きているということが重要。金魚のように人工の固形エサをばら撒いておけば勝手に食べてくれるということは期待できないのです。
死んだアカムシを食べさせるのは難しい
アカムシは観賞魚のエサとして定番なので、冷凍や半生、乾燥状態に加工されたものがペットショップで買えます。
加工されたアカムシは当然ながら死んでいるので動きません。解凍しても水で戻しても生き返りません。
ピンセットでつまんでヤゴの前でゆらゆらと動かせば生きていると誤認して食いついてくれることもありますが、かなり根気のいる作業です。ヤゴの警戒心を解きつつ食い気を誘うのが難しい。
プールのヤゴもアカムシを食べて育った
実はプール育ちのヤゴもアカムシを食べて大きくなった可能性が高いのです。
でもどこからヤゴのエサになるアカムシが湧いたのか?
アカムシを沸かせたのはユスリカという昆虫です。夕方に外で遊んでいるとなぜか頭の上に群れる、あの蚊みたいな虫。そのユスリカの幼虫こそがアカムシなのです。水面付近の壁に産み付けられたゼリー状の卵が孵ってプールの底にアカムシが湧き、それがヤゴの主食となっていたはずです。
アカムシはどこで売ってる?意外な入手先
釣具屋で釣りエサ用のアカムシを買う
アカムシは川釣りの定番エサ
アカムシは観賞魚のエサらしいから生きたアカムシもペットショップで売られてるはず。と思いきや売られているのは意外な場所。それは釣具店です。
川や池などの淡水でテナガエビや小魚釣りをする際の定番エサなので、活きエサを売っている釣具店や釣り餌店であれば入手できます。売場ではミミズなどと一緒に冷蔵庫に陳列され、価格は1パック200~300円ぐらい。ヤゴの飼育には十分な量が入ってます。
プール清掃の時期は売り切れることもあるのでお早めに。
家の周りでアカムシを採取する
家の周りに放置された水場にいる
アカムシはあなたの家の周りにも生息しています。例えば水が溜まった植木鉢の水受けとか放置された水槽とか。
生き物を入れた覚えのない容器の水底に長細い糞のような塊があったら、それはアカムシの巣(棲管)です。掘り出したら真っ赤なアカムシがでてきます。
戸建てなら雨水桝の底にいる
戸建住宅であれば外構にいくつかある「雨水桝」の蓋を開けてみてください。たぶん蓋の持ち手部分に穴が空いた蓋があるはず。その穴からユスリカが侵入してアカムシが湧きます。
中に溜まっている水は雨樋から伝ってきた雨水なので汚いものではありません。
初めて空けたなら枡の底に土砂が溜まっているはず。そこからアカムシがえ出してユラユラしてる1ことがあります。見えないなら掃除ついでに砂をすくい上げてみましょう。かす揚げみたいなものがあれば便利です。
6月ぐらいの暑い時期なら砂の中に高確率でアカムシが潜んでいます。
バケツに水を貯めて放置すれば湧く
水を貯めたバケツを外に放置しておけば、たぶん2週間後ぐらいにはアカムシが水底に湧いているはずです。アカムシは泥の中などに含まれる有機物を食べるデトリタス食性なので、その辺の土を薄く水に溶いておけば定着しやすいし成長も早くなるでしょう。
初期はお店で買わざるをえませんが、飼育の長期化に備え念のため用意しておくといいかもしれません。
エサのやり方と保存方法
ヤゴの前に放り込むだけ
アカムシの動きがヤゴにアピールをする
生きたアカムシならヤゴへのエサのやり方は簡単です。
ピンセットなどでつまんでヤゴの前に落とすだけ。アカムシが勝手にクネクネ動いてヤゴにアピールをしてくれるので、ヤゴに食い気があれば折りたたみ式の顎を瞬時に伸ばして食べます。
もうご存知のようにアカムシはもともと水の生き物。食べ残しがあってもそのままその環境で生きていくので放っておいて構いません。またヤゴに見つかれば食べられるだけ。半分に千切れたような食べ残しは水を汚すので取り出しておきましょう。
アカムシの保存方法
冷蔵庫で保存する
残ったアカムシは冷蔵庫に入れて保存できます。
お店で買ったアカムシは湿らせた紙のような素材の中に入っているので、乾かないように水を足してやればしばらくの間生き続けます。どれぐらい持つかは条件によりますが、少なくとも2週間ぐらいは大丈夫。時々水換えを行ってください。
水を入れた容器に入れて保存する
あんな気持ち悪い虫を冷蔵庫に入れるなんてとんでもない!
そんな場合は適当な容器に水を貯めて屋外に置いておきましょう。高温で茹だってしまわないよう必ず日陰に設置を。
この場合、幼虫であるところのアカムシがユスリカに羽化して成虫になる可能性があります。名前に”カ”がつくものの蚊ではなく血を吸われることもないのですが、少なくとも部屋の中には置かないほうがいいでしょう。
アカムシ以外にヤゴのエサとなるもの
メダカの稚魚をエサにする
プール清掃とメダカの繁殖時期は重なる
昨今のメダカブームから、ご家庭でメダカを飼育しているかもしれません。
プール清掃の時期とメダカの繁殖時期は重なります。熱心にメダカを飼育している人なら、メダカの稚魚である”針子”のお世話に忙しい時期。
そしてその稚魚はヤゴのエサとしてかなり有効です。そもそも屋外でメダカを飼う場合、ヤゴはメダカを食べる侵略者として嫌われがち。
しかしエサとして扱うことができるかどうかはあなたのお気持ちしだい。私は否定も肯定もしません。
その他に有効なヤゴのエサ
ごく小さなミミズ
その他私が試して成功したエサを挙げておきます。いずれも生きて動いていることが条件。
生まれたてとおぼしき小さくて細いミミズであれば食べてくれます。釣りエサにつかうような太さのミミズだとヤゴが怯えて食べてくれません。
イトトンボのヤゴ
小さなヤゴ。弱々しいイトトンボのヤゴは食べます。なおヤゴ自体も同種間で共食いをしやすいので、複数のヤゴを飼う場合は注意が必要です。
イトミミズ
流れが緩やかで淀んでいるような水路には、水底に大量のイトミミズが発生している場合があります。見た目やサイズはアカムシと近いので、これもヤゴのエサになります。
ボウフラ
ボウフラもヤゴの大好物。そしてその親である蚊の行動範囲は100メートル程度と言われています。あなたが家で蚊に刺されたとしたら、間違いなく近くでボウフラが湧いています。屋外に放置されて水が溜まってる容器を探しましょう。
ミジンコ
田植えシーズンとヤゴのシーズンが重なります。水が入ると土の中で休眠していたミジンコの卵が孵って田んぼの中に群れていることがあります。100均で売ってる目の細かなネットで掬えるので、田んぼの持ち主に許可をもらってから採取しましょう。川の浅瀬などにもたくさんいます。
その他にも小さなオタマジャクシなど、水の中にいる小さな生物はだいたい何でもエサになるぐらいの認識でいいと思います。
一方、ネット上ではタニシを食べるとかダンゴムシを食べるとか言及されていますが、止水域の小さなヤゴではちょっと大きさも硬さも厳しいです。
飼育環境を用意しよう
羽化を成功させるための飼育環境作り
エサの調達と並行して飼育環境も整えていきましょう。
羽化の時期が分からないためこの飼育がすぐ終わるか長丁場になるのかは分かりませんが、ヤゴにとって快適な環境をつくるのが大事です。特に羽化という最終段階で必須になるとまり木の設置が最重要。
ヤゴはどれぐらいの期間でトンボに羽化するのか?
早ければ数日後に羽化する
ヤゴの種類と羽化の時期
飼育するのはいいけど、いつまでエサの調達や水換えを続けないといけないのか?
それを知るためには、ヤゴの種類を知ることが必要です。なぜならヤゴの種類、つまりトンボの種類によって羽化の時期がある程度決まっているからです。育て方や飼育難易度も異なります。
プールのような水の流れていない止水域で採取される代表的なヤゴ3種と羽化の時期をリストアップします。
とはいえこの3種のヤゴ、見た目が似てるので区別はつきにくい。ヤゴの段階ではなんのトンボか見分けるのは諦めて「プールで採れたヤゴはだいたい9月ぐらいまでには羽化するんだな」ぐらいの理解をしつつ希望を持っておきましょう。
明日羽化するかもしれないし数ヶ月後かもしれない
最も遅い場合が9月というだけで、早いヤゴだと一週間以内に羽化して大空へ旅立っていくものもいます。なんにしろ羽化するまでの期間限定飼育なので、ヤゴの飼育には明確なゴールがあります。それは思ったより近いかもしれません。
いつまで経っても羽化せず、やっと羽化したらもう夏休みが終わってましたというパターンも有り得るます。それはそれで頑張って最後まで付き合いましょう。
羽化の直前になると水面から出てきて木によじ登ったりするようになります。水面近くに顔を出して上の様子をうかがったり。同時にエサをとらなくなります。
これによって数日前に羽化を予測することができます。
そういう状態になったらなるべく環境を変えずに見守るようにしましょう。ゴールは近いはずです。
トンボの羽化について
羽化は夜から早朝に始まる
ヤゴの種類によって異なるかもしれませんが、羽化の時間帯は基本的に夜間の暗い時間から早朝に始まります。羽化の一部始終を見届けるのはなかなか難しい。
羽化直後は白っぽく水分の多い体をしていますが、みるみるうちに乾いて色が濃くなり、午前中の早い時間には飛び立っていきます。
根気よく羽化まで見守ろう
ヤゴの飼育で最も難しいエサやりを中心に解説しました。
トンボに限らず虫の羽化というのは総じて神秘的で美しいものです。見た事が無いという人がいればぜひ見てほしいし、子どもにも見せてあげてほしい。そのためにエサやりは重要です。
ヤゴの飼育は子どもに達成感を感じさせてあげるのにうってつけ。飼育という過程の先に羽化という明確なゴールがあるので、他の生き物を飼うよりもそれは大きいと思います。身近な地域の生物多様性を知る上でも意義が大きなものです。
初夏に子どもがヤゴを持って帰ってきたら、それはあなたにとっても子供にとっても貴重な機会だと思ってぜひ挑戦してみてください。
- 幼虫であるアカムシが水底で体を揺するような動きをすることがユスリカ(揺すり蚊)の語源といわれています ↩︎